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糸綴じの本:目次

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■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
第2章:ジェシーという人形


それはそれは遠い昔のお話。

人形には「人形」という名前がなく「観賞用人間」と呼ばれていた頃の話だ。
動くし、喋るし、普通の人間よりも美しい、それが「観賞用人間」
元々は、貴族などの上流階級の人間達の玩具であったが、流行りの為に庶民でも手軽に手に入れる事ができる、それはそれは新しい娯楽であった。
「観賞用人間」の主人となる者達の、「観賞用人間」の使用用途は様々。
ある者は、早くに亡くした子供の代わりに、またある者は、優秀にして忠実な召し使いとして、またある者は、寂しさを紛らわす話し相手として。

人間と同じように、「観賞用人間」は爆発的に増え、そこかしこで「観賞用人間」を見かける事は普通になっていた、そんな時代の話だ。


***


ある、庶民の男が「観賞用人間」を1体、手に入れた。
周りに爆発的に増えてきた彼等と、彼等の主人が羨ましく思えたのだろう。
なにせ、彼は独り身だ。
何もない我が家で一人の夜を過ごすのが苦痛になったのだ。

男が手に入れた人形は、少女と大人のちょうど中間ほどで時計の針を止めてしまったかのような、幼さと大人の色香を合わせ持つ、それはそれは見目麗しい女の人形。
彼女には「ジェシー」という名前を与えた。

ジェシーはなんでも完璧にこなす事のできる、それそれは優秀にして忠実。
だらしなく散らかった男の家は常に清潔と整然が保たれ、朝昼夜には店のものよりも美味しい、きちんとした食事が男の前に並んだ。
ジェシーは食事をとる必要がない。
また夜は、性欲の盛んな年頃の男の相手にもなった。

そう、ジェシーは完璧にして美しい、男の召し使いであった。

さすがの男も、ここまで完璧にされるとは思っておらず、素晴らしい「観賞用人間」を手に入れた事に喜んでいた。
いつも頑張っているジェシーに、よく服を買って与えた。それだけで、ジェシーは喜んでくれたからだ。


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D伯爵の童話 | 2006.12.15
伯爵は、手に持った少女人形、リデルと名付けたその子を、優しく撫でていた。
まるで、辛い記憶を掘り起こした事を詫びるように、リデルという人形への愛情が、優しく伝わってきた。

「彼女は」
伯爵が口を開いた。視線は人形に注がれたまま。
「彼女はまだ、幸せだったと思うのだよ」

そう言いながら、伯爵が視線をあげる。
視線の先に、もう一つ、いや、もう一人、人形がいた。

それは少女と言うには少し大人びた、大人にもなりきれない、けれど艶めかしい女性の人形。
しかし、彼女は目と口を隠され、手は後ろに結ばれていた。
美しいであろう顔は見る事がかなわない。
「ジェシーと言うんだ」
伯爵はそう言った。

「リデルがどうして幸せだったか、話してあげよう」
暖炉の灯で壁に映った私と伯爵の影が、ゆらりと揺れた。

夜はまだ、長い。


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D伯爵の童話 | 2006.12.08
***


その日を境に、リデルはその美しい声で喋ることはなかった。
その美しい顔を華やかな笑顔で飾ることもなかった。

ただただ無表情のまま。

微々とも動かすことをしなくなった。瞬きすらも、リデルは忘れてしまったようだ。
ただ、リデルは分かってしまっただけなのだ。
人形というものを。
それがどんなに人間のように振舞っても、人間にはなれないことを。

永遠の美しさを約束されているけれど、それは有限なる人間への希望を絶たれる事。
人間のように振る舞っても、人形は所詮、人間から型をとったモノでしかない。

いつしか、リデルの噂は街中に流れ、リデルの心を開こうと沢山の人間がやってきて、話しかけたり、沢山の物をプレゼントしたが、何も変わらなかった。
誰もがリデルに酷い事を言った男を憎んだが、誰も問いつめる事は出来なかった。
永遠を生き続ける人形と、有限を生き抜くだけの人間が永遠を誓う事など出来ない事を知っていたから。

また、リデルに起きた事の真相を知ってしまった人形たちが、リデルと同じように喋ること、笑うことをしなくなっていった。

誰もが知っていて、知りたくなかった現実。
美しさと永遠を夢見る夢から、人間も人形も醒めてしまっていたのだ。

そうして、ついに人形たちは、指先すらも動かさない、ただの置物になってしまったのだった。



D伯爵の童話 | 2006.12.08
***


「今日はもっと明るくて、可愛らしく、華やかな感じにしてちょうだい」

リデルはその日以来、パーティの支度は念入りに行うようになった。ただでさえ美しい人形なのに、もっともっと美しくなりたかったのだ。
それは、あの男に恋をしてしまったから。

「それでは、瞳の色は愛らしい唇と同じ、愛らしい桃色に」
「それでは、髪はふわふわと緩やかに巻いて、色は上品で明るい茶色に」
「それでは、お洋服は明るい白と桃色を基調にしたワンピースに」

恋をしてしまったリデルを応援するかのように、召使たちは毎日、どうしたらリデルがもっと美しく、愛らしくなるのかを考えてくれた。

「いつもありがとう」

リデルはそんな三人に、本当に感謝していた。自分でも分かるほどに、リデルは美しくなっていった。

そうしてパーティに行くと、男はいつもリデルの手を取りにやってきた。リデルはそれが大変嬉しく、自分はとても幸せだと感じていた。

いつも美しく、それでいて紳士的。
男はリデルと踊っている最中、いつも優しい笑みを浮かべていた。
その優しい笑顔に、リデルもうっとりと瞳を細める。

優雅な調べの上で、男はリデルを優しくリードする。
華やかな舞台で、男とリデルは常に円舞曲の中心にいた。
舞踏会に参加する者達が釘付けになるほどに、二人は楽し気に、優雅に、華やかな一夜を楽しんでいた。



D伯爵の童話 | 2006.12.08
第1幕【人形のお話】

第1章:リデルという少女人形


それはそれは遠い昔のお話。

人間が、人形と仲良く暮らしていた頃のお話だ。

その頃の人形たちときたら、顔も身体も整っていて美しい上に、まるで小鳥が囀るような綺麗な声で喋り、人間すらも驚くほどの聡明な頭脳を持っていて、そう、まるで人間の羨みを全て集めて出来ていた。

そして、その頃の人間達の間でのステータスは、囲っている人形の数・美しさで決まっていたのだ。


D伯爵の童話 | 2006.12.06
私が彼に出会った時の事は、よく覚えていない。
いつの間にか、彼、「D伯爵」を知っていて、こうして彼の家に呼ばれ、食事を共にするような仲であった。

伯爵の家は、まるで中世を思わせるような物で全てが整えられていた。
室内暖炉に、アンティークな家具達、古めかしい絵画と額縁。
食事の際に使ったフォークやナイフ、皿やコップに至るまで、かなりの年代物と思われる物ばかりだった。

食事が終わると、彼は暖炉の前の揺り椅子に座り、心地よい食後の一服を楽しんでいた。
彼の煙草もまた今どき珍しいパイプ煙草だ。
私は側のソファに座り、美味しいものでいっぱいになった胃袋を服の上からさすっていた。

窓の側のチェストの上に、可愛らしい人形があるのに気付いた。
やはりアンティークなようで、時を感じさせる少女人形だった。
私はそれを手に取り、
「伯爵、この子の名前はなんて言うんですか?」
と聞いてみた。

伯爵は何にでも名前を付けているヒトだった。例えば、今伯爵が座っている揺り椅子にさえ名前が付いている。たしか「キング」とか言っていた。

伯爵は煙りを燻らせ、目を細め、
「あぁ、その子は『リデル』というんだ」
伯爵が手でこちらによこせ、という合図をしたので、私は「リデル」という少女人形を渡した。
「美しい子だろう」
伯爵が優しく撫でている。よほどお気に入りなんだろう。

「あぁ、そうだ」
思い付いたように、伯爵が声を吐き出す。
「人形の話をしてあげよう」

暖炉の中で、火種がまるで拍手のようにパチパチと音を上げた。


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D伯爵の童話 | 2006.12.04