ようこそ『The Ark』へ

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糸綴じの本:目次

下に行く程新しいです。

■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
空は何処までも晴れて、果てしなく、きらきらと光っているのに、まるで梅雨時のように雫が線を引いていた。
「あ…雨?」
学校が終わり、いざ校舎から出ようとした、その時だった。
「晴れてるのに…何処から」
「天気雨だよ、牧野くん」
「あ、麻都」
昇降口で佇む俺の傍らに、いつの間にかそいつは立っていた。
「実に素晴らしい天気雨。いや、実に」
そう言って、麻都は空を仰ぎ見た。額に手を当てて、まるで遠くを見るように。
「素晴らしくもなんともねーよ。帰るこっちは大迷惑」
傘がなきゃ歩くのは厳しそうな降りようだ。
「すぐに止むさ。それに…」
「それに?」
「天気雨の時に一人でいない方がいいよ」
いつもへらへらした麻都の顔が、一瞬だけマジになった。
「な、なんでさ」
「お狐様の行列に入れられちゃうからさ」
…ちょっとだけ、真面目な答を期待した自分が馬鹿に思えた。
そうだ、こいつはオカルトとか大好きな変人だったんだ。
「これだけすごい天気雨だもんな、よほど偉いお狐様のお嫁入りなんだろーなぁ」
しげしげと空を眺める麻都。
クダラネー。
降り方が少し弱まってきたのを見計らって、俺は鞄を頭の上に乗せた。
「前から言ってるけど、その手の話は信じてねーんだからな!」
「…しょっちゅう心霊体験してるくせに」
「うるせ!…俺は帰るっ!」
「止むまで待ちなよ」
「お前と一緒なんてゴメンだっつの!!」
俺は晴れた空から降りしきる雨の中、校門の方へ走り出した。
「気をつけてね〜」
背中に麻都ののんびりした声が聞こえた。

俺と麻都は小学校から高校までずっと同じ学校に通ってる、幼なじみというか、腐れ縁みたいな間柄だ。
あいつは昔からこの世のモノではない、所謂お化けとか怪談話とかが好きで。
なんでそんなモノが好きなのか、なんでやたら詳しいのかよく分からないが、昔からあいつの臨場感溢れる怪談話を聞かされていたのは事実。
お陰ですっかりお化け嫌いになったのだが、俺はどうやらお化けに好かれる体質らしく、怖いめに遭うことがしばしばあったりするのだ。


陽がきらきらと照っているのに、まるで滝のような雨のなか、俺はひたすら家路を急いだ。
傘の代わりに頭にかざした薄っぺらい鞄は、ぐっしょりと濡れている。中身がたいして入っていないのが、幸いだ。
通学路の途中にある、児童公園が見えてきた。
少し、休憩するか。
児童公園の出入り口付近にある、公衆トイレに駆け込んだ。
空は明るいのに、こんなにずぶ濡れで、なんか変な感じ。
さすがの雨に、いつもは子供で賑やかな公園でも、人っ子一人、いやしない。
…いい加減止まないもんかな。
すぐ止むと麻都は言っていたが、一向に止む気配は無い。
走ってきたので、疲れ果てた俺は、そのまま座り込んだ。と、その時、妙な音が聞こえてきた。

ドン…ドン…ドンドンッ

お祭で聞く、和太鼓のような、ピンと張った布が震える乾いた音。

シャン…シャンシャンッ

今度は沢山の小さな鈴が一斉にやかましく鳴る音。
…いったい?
街中でたまにお店の宣伝回りのちんどん屋を見たりするけど、すぐそこの通りをそのちんどん屋が練り歩いてるような様相だ。
こんな雨の中を?まさか!
今いる場所は、公衆トイレの壁があって、通りの方がよく見えない。
俺は気になって気になって、通りがよく見える所へ移動した。
で、すぐ、やめときゃ良かったと後悔した。

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糸綴じの本 | 2007.01.22

- | 2011.02.18