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糸綴じの本:目次

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■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
***


ある日、行商の男が、街に訪れた。
その商人は色々な国を回っていて、物好きな人間には色んな国の可笑しな話をしてやるのが趣味のような人間であった。
その日も、行商の男は街の小さな酒場で、こんな話をして聞かせた。

「知っているか?
 人間の形をしたモノに魅せられた男に会ったんだ。

 隣の国での話だ。
 とある市場で、見窄らしい格好をした青年が、こう言ったんだ。
 『年頃の少女が着るような、美しい衣服が欲しい』
 まるで所帯を持っているようにも思えない、若くて、頬は痩けてしまっていたがそこそこに顔のいい青年だった。
 『なんだ、使いの人間か?年頃の少女なら、欲しい衣服は自分で選ぶものだが』
 そう言うと、青年はこう言った。
 『私の愛する彼女は、その身を自ら動かす事が出来ないのだよ。口も聞けないから、好みも聞けない』
 病弱な女へのプレゼントかと思い、適当に見繕ってやろうとしたのだが、
 『金ならあるから、この世で一番美しい彼女に似合う、美しい衣服をお願いしたいのだ』
 そう言って、金貨の入った袋を渡されたのさ。随分な金額だった。だからこう言ってやったのさ。
 『それほどに美しい娘なら、一度見てみたい。会わせてくれれば、その娘に一番似合う衣服を用意しよう』
 青年はしばらく考え込んでいたよ。他人見せるのは勿体無いらしい。
 随分と悩んでいたが、承諾してくれた」

行商の男は、そこまで一気に話すと、盃の酒をぐいと飲み干した。

「見窄らしい青年がついてこいというので、青年の後についていった。
 市場からも随分と遠い、街外れの小さな家まで歩かされた。
 これだけ歩いて歩いて、少女が美人じゃ無かったら、青年を殴って金を頂いて帰ろうと思っていたんだ。

 『着いた。さぁ、少女に一番似合う衣服を考えてくれ』
 青年が扉を開けた。すると、物凄い異臭がするんだ。なにか、生臭くて、腐ったような、そんな臭いが。
 堪らず鼻をつまんださ。しかし、扉の外からじゃ、少女の姿なんて見えないから、しぶしぶ中に入った。
 部屋の中には異臭が篭っていて、吐き気がするくらいだった。
 そんな部屋の奥に、女が座っていたんだ。
 薄暗くてよく分からなかった。すると青年が女に近づいていき、何事かを囁き、髪を撫でていた。
 あれがそのこの世で一番美しい少女か。そう思いながら青年に呼び掛けたんだ。
 『薄暗くてよく分からないのだが』
 すると、青年が、
 『あぁ、すまない』
 そう言って奥の窓に掛けてある分厚いカーテンを開いてくれたんだ。

 椅子に、美しい少女が、座っていたよ。

 綺麗に髪をとかしてあって、爪も磨かれていた。
 きっちりとコルセットも絞めてあって、フリルとレースをふんだんにあしらった、高そうなドレスを身に纏っていた。

 けれど、おかしいんだ。
 その娘、ひたとも動かないんだ。無表情で、空中を見つめたままでさ。
 瞬きすらもしないんだ。
 確かに美しかったけど、あの異臭は少女からしていたんだ。

 あまりに酷い臭いだったから、青年に聞いたのさ。
 『この臭いはいったいなんなんだい?鼻がもげそうだ』
 すると青年が、『あぁ』と言って娘の横に立って
 『仕方ないんだ。彼女の肌があまりにも弱いからね』
 そう言って、娘の手を取り、手の甲の皮膚をべろっとめくったんだ!
 『おい!お前!何をしてるんだよ!』
 『大丈夫さ。彼女は痛がったりなんてしないから。それに、よく見てくれ』
 皮膚のめくれた娘の手をこちらに向けて、青年が言ったんだ。
 『彼女の本当の皮膚は腐ってしまってるからね。外側から覆っているんだよ』
 めくれた皮膚の下に本物の手があったんだ!
 もうすっかり腐ってどす黒くなってて…骨みたいなのが少し見えていたんだ!
 『せっかく僕のモノにしたのに、時間には敵わない』
 そんなことを言ってる青年の顔があまりにも恐ろしくて、思わず逃げ出してきてしまったよ。

 あれは…多分、どう考えても、…死体だった。
 腐っているのが分からないように覆ってしまったんだろう。
 世の中には、変なヤツがいるもんだ」

青ざめた顔で、行商の男はもういっぱい、盃の酒をぐいとあおった。


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D伯爵の童話 | 2006.12.30

- | 2011.02.18