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- | 2011.02.18
第3章:アリスという少女


そもそも、人形は何処からきたのか。


知っているかね。

人形の見つめる果てしなく膨大な時間。
空虚な瞳の起源。
今でこそ、その腕に抱ける人形の多い理由。
人が人形に幻想を抱く由来。

この世にあるものは、全てが結果であり、等しく原因が存在する。


それはそれは、遠い昔のお話。

人形という存在が生まれる、少し前のお話


***

自然と人が、共栄した時代。
人が大地を耕し、石を積み、街を成して暮らしていた頃。

その少女は、とある裕福な街の、裕福な家庭の娘。

彼女は、とても美しかった。
透けるような肌、薔薇色の唇、青玉石のような瞳、ビロードのようなミルクティ色の髪。
まるで神が彫り起こした、精巧にして完成された、美しいその面差し。
少女は、神からも人間からも多くの寵愛を受けていた。

少女の名は「アリス」

少女は愛する青年の元へと向かうところ。
よく晴れた空の下を、街外れにある彼の家まで、軽やかな足取りで歩いている。
短い草が茂る広野に、街の外へと続く道が細く伸びている。その街と外を隔てる粗末な柵のそばに、こじんまりとした家があった。
その家に、少女の愛する青年がいた。

小さな家に駆け寄り、軽くノックをして少女は扉を開ける。

「こんにちわ、ジャック」
「いらっしゃい、アリス」

少女は静かに扉を閉めると、愛する青年に抱きつく。
青年の名は「ジャック」

「とても逢いたかったわ、ジャック」
「僕もだよ、アリス」

少女は、青年をとても愛していた。
青年は、少女をとてもとても愛していた。

青年はここからほど近い農家の手伝いをしながら生計を立てていた。
家族はおらず、お世辞にも裕福とは言えない。
少女は街一番の裕福な家の娘で、学業に励む女学生であった。
貧富の差あれど、二人は周囲に愛される恋人同士であった。
学業の合間、仕事の合間、二人は逢瀬を重ねていた。

少女は、青年をとても愛していた。
青年は、少女をとてもとても愛していた。

まだ、一緒に暮らす事を許されない二人は僅かな時間の逢瀬を大切に過ごしていた。
仲良く寄り添い、日々の出来事を語らい、時に密やかに、身体を重ねる事もあった。
小さく粗末なベッドの上で、二人は蜜やかに愛を確かめあう。
少女が目を閉じると、青年は少女の髪を撫でながら、優しく囁く。
「その美しい髪も、肌も、瞳も、心も、全て僕のもの。愛しているよ」

「愛しているよ」

少女は、青年をとても愛していた。
青年は、少女をとてもとても愛していた。

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D伯爵の童話 | 2006.12.20

- | 2011.02.18