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糸綴じの本:目次

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■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
***


観賞用人間は完璧である。
故に、女の観賞用人間は、人間の女に疎まれやすい。
ヴィヴィもまた、例外ではなかった。

ヴィヴィが完全に男の家に入り浸り、内縁状態のようになっていた頃、男が出掛けたある日、ヴィヴィはジェシーを問いつめた。

「ジェシー」
「なんですか?」
「貴方、あの人の事、どう思ってるの?いくら作り物でも、人を好きになったりはするんでしょう?」
「あの方は、私の大切な人です」
「それは好きって事?」
「好きというのが、よく分かりませんけど、あの方の為にできる事なら、何だってしたいと思っています。もちろん、ヴィヴィさんはあの方の大切な人ですから、ヴィヴィさんの為にできる事もやりたいと思っていますよ」
「あ、そ」

ジェシーは完璧だ。
その慈愛に満ちた目は、まるで聖母のよう。

「気に入らないわ」

ヴィヴィはそういうと、白いスカーフでジェシーに目隠しをしてしまう。

「ヴィヴィさん何を!」
「気に入らないの!あんたの目が!」
「そんな…」
「私の為にできる事ならするのでしょ?だったら貴方は今後、目隠ししたままで生活なさい!」
「! ……はい」


男が帰ってくると、ヴィヴィは男に事の真相を話す。
もちろん男は反対した。
どうしようもない理由で、ジェシーを不自由にさせてしまうのはあまりに可哀想だ。
反対するならば、別れる。
そうヴィヴィに言われてしまい、男は渋々承諾した。

しかし、ジェシーは口元に優しい笑みを浮かべたままだった。


目隠しをしていても、ジェシーは何事も完璧にこなす。
それは身体が全て覚えているからだろう。

何事も完璧にこなそうとも、目隠しのジェシーはあまりに可哀想で、男はジェシーを気遣った。
それはヴィヴィにとってはなんとも気に入らない様子で、その様を見るにつけ、ヴィヴィは激怒した。


ヴィヴィの誕生日が近くなり、男はヴィヴィの為にプレゼントを用意した。
日頃、ヴィヴィを怒らせてばかりだから、かなり奮発し、素晴らしい洋服を用意した。

「ジェシー、もうすぐヴィヴィの誕生日なんだよ。だから、素晴らしい洋服を買ってきたんだ」
得意げに、ジェシーに自慢をした。しかし、
「ヴィヴィさんは洋服よりも、身につける宝石の方が喜ぶと思います。常々彼女と一緒にいますが、彼女は他人からとても裕福に見られたい願望がとても強いように思えます。また、洋服を毎日念入りに選んでいる様子なので、下手に洋服を与えてしまっては、彼女の自尊心に傷を付けかねません。彼女は洋服よりも宝石の方が素直に喜ぶでしょう。」
その言葉に、男は絶句した。
初めてだったのだ。ジェシーが男に反対の意見を述べたのは。それは男の逆鱗に触れた。
自分の方がヴィヴィをよく知っているはずなのだ。それなのに。
それなのに!

男はジェシーの口を布で塞いだ。そのまま猿轡のようにし、彼女を喋れないようにした。
ジェシーがもごもごと口を動かし、口を覆う物を外そうとすると、男は言った。
「それをとるな!そして、お前は今後一切喋るな!」
「!」

ジェシーは小さく頷いた。



それは、傍から見れば、ただの虐待であった。しかし、ジェシーは目隠しも猿轡もとらず、二人の望みであるからと、二人の身の回りを世話した。
さすがに街の人間はジェシーを哀れんだ。

二人の家に街の人間が押し掛け、ジェシーの目隠しや猿轡を取るよう二人に言ったが、二人はがんとして聞かなかった。


また、数日後、二人の家に行くと、二人はまるで煙のように居なくなっており、代わりに、目隠しと猿轡と手足を縛られたジェシーが床に転がっていた。
ジェシーは観賞用人間にとって一番重要な首を折られており、ぴくりとも動かなかった。


***


こうして、人々は学んだのだよ。
完璧たる物が産む悲劇と、人間の狂気を。
この一件もあって、人々はますます動く事、喋る事をする、見た目の美しい物を作ってはいけないと誓ったのさ。

ああ、これはいつ頃の事かって?
それは分からないんだ。

何せ、史実にも残らない、遠い昔のお話だからね。


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D伯爵の童話 | 2006.12.18

- | 2011.02.18