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since:2006.12.02

糸綴じの本:目次

下に行く程新しいです。

■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
駅の改札に向かう途中、頭に綺麗な白い花のコサージュを付けた少女を見掛けました。
とても綺麗な花だったので、見とれていました。
しかし、よく見るとその花は飾りではないようなのです。

頭から、生えていました。

改札を抜けて向かうホームが彼女と同じだったので、何となく、その花に注目していました。

大きくて、ガーゼのように柔らかそうな、白いふわふわの花でした。
何も知らずに、彼女はホームに立っていました


ホームに電車が滑り込んで来ました。
電車の先頭には「急行」の文字が光っていました。
この駅には急行は止まらない決まりになっていますので、若干スピードを下げただけで走り去ろうとしていました。

注目していた、頭に花を咲かせた少女の身体が傾くのが見えました。
頭の花がふらりと花弁を翻してました。


「…あ」


思わず、声を上げてました

電車の耳をつんざく急ブレーキの音が頭に鳴り響いてました。
沢山の悲鳴とざわめきが私の周りを取り囲んでいました。

彼女が立っていた付近に近づくと、花が落ちていました。
白い、汚れを知らぬようだったあの花は、鮮やかな紅に染まり、花びらは風に揺れていました。


人身事故のために会社には遅刻してしまいました。
しかし、白い花の話は誰にもしませんでした。誰も信じてはくれないでしょうから。



午後、客先へ出向く為に地下鉄の駅へ向かいました。
改札を抜け、階段を降りていく最中、私の視界では不思議な事が起こり始めました。

私の前を行く人々の頭から、にょきにょきと緑色の植物の芽が生えてきたのです。
それはなんとも異様な光景で、声を上げそうになりました。
しかし、こんな物が見えているなんて、きっと私の頭がおかしいに違いないからです。

見ているうちに、小さな芽は二葉へ、二葉は蕾へ、そして蕾は開き、白い花へとなったのです。
私は今朝の出来事を思い出しました。
花を咲かせた少女が、急行電車へ飛び込む様を。

何かが可笑しい、そう思いながら、地下鉄のホームで電車を待っていました。
私の周りには、頭に花を咲かせた人々が大勢並んでいます。

電車が轟音を響かせながら滑り込んできました。
電車の中にも、頭に花を咲かせた人々がいっぱいいたのです。
なんとも気味の悪い様でした。

私は気分が悪くなり、その電車には乗らず、ホームに残りました。

花を咲かせた人々が電車に乗り込むと、発車ベルの音がして、電車がゆっくりと動きだしました。
徐々に速度を上げ、轟音を響かせ始めるのを、一人残ったホームで聞いていました。


すると、ドオォーーン!と凄まじい爆発音が、響いてきたのです。
そして、地下鉄の天上を這うように黒い煙がやってきました。
非常ベルが鳴り、たった今改札からホームにやってきた人々はパニックに陥っていました。

私も、なんとか人々をかき分け、地下鉄から出て来れたのです。
その後は凄まじい混乱になりました。


それにしても、あの白い花は一体なんだったのでしょうか。

まぁでもこんな話、誰も信じてはくれないでしょう。


「ね?刑事さん」

私は取調室で、数人の男に囲まれ、この話をしていた。
地下鉄の爆破テロに巻き込まれながらも、五体満足な私は、快く刑事達の取り調べに応じていた。

「やはり、白い花か」

刑事の一人が言った。それから、一番偉そうな刑事が、他の数名に命令を出し、彼等はばたばたと取調室から出ていった。
部屋に残ったのは、私とその刑事の二人きり。

「いやいや、あなたのお話のお陰で、犯人を特定出来そうですよ、感謝します」
「まるでファンタジーな話なのに、犯人逮捕に繋がるのですか?」

刑事はしばらくの間を置いて、私に一枚の写真を差し出した。

「…貴方が見たという花、こんな形ではありませんでした?」

そこに映っていたのは、確かに、地下鉄のホームで見た、あの白い花。

「えぇ、確かに」
「実はこれ、とある国がこちらに送り込んできた生物兵器なんですよ」
「ぇ!?」
「綺麗なのにねぇ…。この花は生える場所を選びません。人間の頭にだって根を生やしてしまう、恐ろしい植物なんですよ。そして、この花の特徴は、花びらの状態がある一定量以上密集すると、爆発するところなんですよ。この国でこんな物を使われるなんてね。テロリストに一本取れれた感じです」

刑事は忌々しそうに写真の花を見つめている。
確かに。
人がやたらと密集するこの国ではうってつけのテロ兵器だ。

「しかし、こんな花が頭に生えていたりなんてしたら、誰だって気付くと思うんですけど」
「そこがテロリストの目のつけ所なんだよ。この国の人間は自分に自信が無い人が多い。だから何かしら変な物を見つけていても、気のせいだ、と片付けてしまう。挙げ句、自分が見ている物は本来ならこの世には無い物だ、とか、自分が見ている物は周りにも見えている普通の物で今さら聞くべき物ではない、と自分を疑う。そんな人間が多い国だからこその作戦だ」
「あぁ、なるほど」

刑事が立ち上がった。

「貴方のお陰で、早々に片付きそうです。何せあの時電車に乗っていた人々はみんなお亡くなりになってしまいましたからね」

握手をし、それでは、と警察署を後にした。


帰る道すがら、あの写真の白い花を思い出してみた。
そうか、あれは生物兵器だったのか。と頭の中で記憶の花と写真の花を照合させる。

おや?

違和感がある。
地下鉄の人々の頭から生えていた花と写真の花は合致したのだが、一つ、合致しない花がある。

そう、一番始めに見た、少女の頭の白い花。

あれと写真の花は一見似ているけれど、合致しない。
じゃあ、あれは何だったんだろうか。


最寄り駅から自宅に戻る途中の道で、私は立ち止まった。
視線の先には、けたたましい警報を鳴らす踏切。
黒と黄色の棒が下がっている。


その手前、男が立っている。

男の頭に、白い花が生えていた。



白い花はもう、見たくないなぁ。

fin...

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糸綴じの本 | 2006.12.14

- | 2011.02.18