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- | 2011.02.18
第1幕【人形のお話】

第1章:リデルという少女人形


それはそれは遠い昔のお話。

人間が、人形と仲良く暮らしていた頃のお話だ。

その頃の人形たちときたら、顔も身体も整っていて美しい上に、まるで小鳥が囀るような綺麗な声で喋り、人間すらも驚くほどの聡明な頭脳を持っていて、そう、まるで人間の羨みを全て集めて出来ていた。

そして、その頃の人間達の間でのステータスは、囲っている人形の数・美しさで決まっていたのだ。


***


「リデル、そろそろ時間だよ、支度なさい」
「はい、お父様」

とある富豪のおかかえ人形・リデルは、その街では一番と噂される美しい顔と身体と声を持つ、少女人形だった。

「今日のパーティはどのような格好がいいかしら?」
「それでは、今日の瞳の色は水色と紫色のオッドアイなんていかがでしょう?」
「それでしたら、髪は流れるように真っ直ぐに、色は鴉の羽根のような漆黒に」
「あぁ、白い肌によく映えますわ、お洋服は白い薔薇のレースをたっぷり配った、この黒地のワンピースにいたしましょう」

家の主の多大な寵愛を受けていたリデルには、三人の召使がいた。その三人はリデルを美しく飾りたてることを仕事とし、それを喜びとしていた。
一人は、瞳の色と化粧を。
一人は、髪の色と形を。
一人は、身に纏う衣装を。
そうして全てを整えて、美しく完成されたリデルを見て、三人はいつも声を揃えてこう言った。

「お美しい!!」

そうして、リデルもまた、鏡の中の自分を見て、改めてこう言うのだ。

「本当に美しいわ。ありがとう、三人とも」

それはまるで、花が開くような美しい笑顔と、小鳥が喜びを囀るような声とで紡がれる謝辞だった。

こうして支度を整えたリデルは、家の主・父と呼ぶ人間が待つ玄関へと急ぐ。

「終わりましたわ、お父様」

そう言ってリデルは父の前で今日の美しい姿をくるっと回って見せる。

「うむ、美しい。さすがは私のリデル。さぁ、行こう」

父は満足そうに微笑むと、リデルの手を取り、一緒に車に乗り込んだ。
二人はこれから、いつものようにパーティに出かけるのだ。

それは、富豪と呼ばれる者たちだけが集うことの出来る、それはそれは豪華なパーティ。
美しいシャンデリアが天井から下がり、豪華な食事が並び、一流の演奏者が集まる人々の耳を楽しませる。

「これはこれは××卿、お久しぶりです」
「おやおや、△△卿ではないですか。お元気でしたか」
「えぇ、このとおり。××卿もリデル嬢もお元気そうで」

△△卿にそう言われ、リデルはワンピースを広げるように摘まんでお辞儀をした。
リデルの父は、大変顔が広い上、この街では一番と言われるリデルの所有者だったし、ものすごい有名人だった。

と、不意に会場の曲の雰囲気が変わった。
優雅で、軽快な、それはそれは美しい円舞曲。
人々は曲に合わせて踊り始めた。
壁際にて、父と共に楽しそうに踊る人々を眺めていたリデルの前に、一人の男が跪く。

「よろしければ、ご一緒に」

その男は、若々しく、一瞬人形と見紛うほどに整った顔立ちをしていて、美しかった。

「喜んで」

父の了承を得て、リデルは男に手を差し伸べた。
男は柔らかく微笑み、手を取ると、会場の、ちょうど真ん中あたりにて、リデルと共に踊り始めた。
男は、リデルの細い腰に片方の手を、もう片方はリデルのしなやかな手指を優しくとり、その顔には清々とした微笑を湛えていた。
美しいものが大好きなリデルは、その男を大変気にいってしまった。


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D伯爵の童話 | 2006.12.06

- | 2011.02.18