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糸綴じの本:目次

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■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
 「月が綺麗だねぇ」
振り返ると、男が立っていた。
よれよれのシャツに、緩めたネクタイ、頭はぼさぼさ。見るからにくたびれた、私より少し上くらいの、サラリーマン。
男の薄い唇からふぅっと吐き出された煙が、白くふわりと舞って消えた。
「…月?」
持っていた煙草を口に銜えて、上を指差す。つられて顔をあげると、真ん丸の月が光っていた。
灰色の模様がくっきり見えるほどに鮮明な、白い月。
「屋上にでも上がらなきゃ、しっかり見えないからねぇ」
両手の親指と人差し指で作った四角に、月を捕らえて、彼はにやりと笑った。
「…君は月を見に来た、わけじゃなさそうだね。邪魔しちゃったかな」
ビルの屋上の、フェンスの向こう側にいる私に、彼は無表情で言った。
「……」
ふぅっと白い煙が揺らめいて消えた。
「…まぁ、好きにしたら?別に止めない。他人の人生の選択に、他人が口出すもんじゃないし」
うーん、と背伸びをして煙を吐いた後、彼は「あ」となにか思い出したように口を開けた。
「ひとつ、教えてやるよ。
 満月の夜は、気分が高ぶったり、悪い事考えたり、しやすいんだと。
 だから、事故とか事件とか、多いんだってさ」
煙がまた空中に舞った。

そして、彼はくるりと後ろを向き、出入り口の方へ歩き出した。それから、ポケットから紙切れを取り出し、ビリビリに破いて、
「じゃ、俺は、帰るわ」
そう言って、ドアの向こうに消えた。
月が綺麗だ。
夜の空が、うすら青く感じるほどに、強烈な光。
足元を見る。
車のバックライト、店の灯り、沢山の光が渦を巻いている。
不意に、空の灯りが陰る。雲が出てきた。
「…行くか」
私はそう呟いた。

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物書き向け満月企画参加作品

パピルスの1片 | 2011.02.18

- | 2011.02.18