ようこそ『The Ark』へ

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当ブログでは、不可思議な小説、童話的な小説をおいております。
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それでは、どうぞごゆるりと。。。


since:2006.12.02

糸綴じの本:目次

下に行く程新しいです。

■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
「つかさー!どこだー!」
少年麻都は周りの細かい枝や草も気にとめず、叫びながら奥に進んで行く。
なんでそんなに必死なんだろう。俺は麻都がいなくなったら、こんなに必死に探すだろうか?
奥の方に御神木と言われている樹が見えてきた。
物凄く大きな樹で、根っこだけで子供の背丈程はある。黒くて太い幹にはぐるりとしめ縄が巻いてあって、すごく分かりやすい。
その根っこの近くに、何かが転がっているのが見えた。
「!あれじゃないか?」
「ホントだ!いた!司っ!つかさ!」
御神木の周りは少し開けていて、ちいさな空き地のようになっていた。沢山の落ち葉が敷き詰められた地面に、昔の俺がいた。
麻都と一緒に駆け寄っていると、急に世界が暗くなり始めた。ちょっと待て、夏の夕陽はそんなに早く落ちないぞ!と思っている間にもまるで空中を墨汁が流れているかのように暗くなり、少年麻都の背中が見えなくなり始めた。
「ちょっと待て、何かおかしい!おい!」
そう叫んだが、少年麻都は消えて行くだけだった。
気付けば、俺は昔の俺が倒れていた場所に立っていた。目の前には大きな御神木。辺りはとっぷりと暮れていた。
陽が落ちたせいか分からないが、寒く感じる。とりあえず、と上着を着た。それでも寒くて、マフラーも巻いた。
一体全体どうなってるんだ?
そう思いながら御神木を見上げた。その時、
「牧野ー!」
遠くから声が聞こえる。麻都の声だ。
振り返ると、チラチラと黄色い光がだんだんと近づいて来るのが見えた。
「あ!やっぱり此処だった!牧野!!」
そう言って近づいてきた明かりは、麻都のペンライト。
いつもの見慣れた麻都がそこにいた。
「やっと見つけた。踏切渡って振り返ったら消えてるんだもん」
「麻都…」
やはり、俺はまったく別の次元に行っていたらしい。
それにしても、昔のようにこいつは俺を探し回るなんてなぁ。
「まったく…まさか二回も狐隠しに遭うなんて!お前ばっかりずるいぞ!」
ホントに、俺はこいつが良いヤツか悪いヤツか分からねぇ。

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糸綴じの本 | 2007.02.11
「なんでそんなことに?」
俺が聞き返すと、少年麻都は暗い顔になって俯いた。
「僕のせいなんです…」
「麻都……くんの?」
少年時代のあいつにとはいえ、麻都にくんとか付けるのは気持ち悪いな。
「…教室でコックリさんをやってたんです、牧野と。そしたら何かが本当に降りてきて、牧野が10円玉から指を離したら、突然煙みたいにふっと消えちゃって…」
……ん?なんか聞いたことある。
まだ記憶は霞がかった感じでよく思い出せない。ん〜なんだっけ?
「神隠しか、狐隠しにあったみたいで…」
…狐隠し!
ここら一帯を守っている神様がお稲荷様なこともあって、俺らは小さい時大人達に「悪いことしたらお狐様に連れていかれるぞ」と言われていた。
そう、それ。
俺は確か…
「ランドセルも靴もそのままで、いなくなっちゃったんだ」
そう、狐隠しに遭ったんだ。
俺が思い出して頷いていると、少年麻都が凄く辛そうな顔をし始めた。唇まで噛み締めて、悔しそうに。
「…悪いことしたのは僕なのに。…やっちゃいけないコックリさんに誘ったのは僕なのに。あいつは巻き込まれただけなのに…!」
気付いたら、少年麻都の目からボタボタと涙が零れていた。
え、おいおい、泣く程のことか?……泣く程のこと、なのか…。
最初見たとき大人っぽいとか思ったけど…そうだよな、小学生なんだよな、こいつは。
…よし!
「コックリさんをやってたんだよな?」
「あ、はい」
ゴシゴシと手の甲で涙を拭いている少年麻都の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「それならきっと狐隠しだ。神社の周りは探したか?」
「まだです」
「神社の裏山辺りにいるに違いない。行こう!」
少しぽかんとしていたが、だんだんと少年麻都の顔が明るくなった。
「はい!」
何がなんだか分からないけど、とりあえず、少年時代の俺は助けておかないと。元の世界に戻るのは、それから考えてもいいだろ。
俺は少年麻都を従え、上着とマフラーを抱えて、神社の方へ走り出した。

糸綴じの本 | 2007.02.10
俺は再び溜め息を吐き出した。なんとも嫌なもので挟まれたものだ。
右には麻都、左には人間じゃない奴。
今日は厄日だ。
また溜め息を吐き出す。すると麻都がこちらに顔を向けた。
「溜め息ばっか吐いて、そんなに俺と帰るのが嫌なの?」
こちらを向いた麻都の顔に、女に気付いた表情は伺えない。やはり、か。
「…それもある」
「『も』?それって…」
麻都が何かを言ったが、上り電車がパーンと警笛を鳴らしながらガタガタと踏切を通過して行った為に、声は掻き消された。
代わりに、俺は人間じゃない奴の囁きに耳を奪われていた。

『…見ツケタ……ヤット。マタ逢エタ……マタ』

…また逢えた?
女幽霊の顔がこちらを向いているのが見える。
長い前髪で瞳は見えない。薄い唇が少し震える程度だったが、奴らの声はこちらの法則とかを完全無視して耳に頭に入ってくる。
…見たこともないんですけど。
奴らの相手なんかしていたくもない。てか例え過去に遭っていたとしても早急に記憶から消してるわ。
電車が通過してしまい、警報機も鳴りやんで遮断機が上がる。よし、こいつから離れられる。
麻都が一歩前を歩く。女が後ろに遠ざかり始める。
…よし、このまま自然に離れられれば………え?
顔を上げたしな、一歩前の麻都がすうっと何処かに吸い込まれていくように、消えた。踏切の反対側にいた車もすれ違う間際に空中に消えた。
…は?
一瞬、何が起きたのか判らない。
消えた。
え?なんで?
「麻都?」
名前を呼んだが、そこには俺しかいない。ちょっと待て。

カンカンカンカン……

警報機が再び鳴り始めた。慌てて向こう側に渡る。
なんなんだ?
振り返ると、反対側には小さい男の子が立っていた。襟足の長い、小学校低学年くらいの男の子。
どこかで見たことがあるような…。
そう思っていると、ガタガタと電車が上り方向に通過していく。
…やっぱおかしい。
通過した電車が見慣れない色だったし、踏切の周りの様子がさっきまで住宅が立ち並んでいたのに、今はだだっ広い更地と随分違う。
それに何より、めちゃくちゃ暑い。
「どうなってんだ?」
遮断機が上がり、反対側の少年が走りだす。少年はよく見ると半袖に半ズボン。
マフラーを外し、上着を脱いでいる間に、少年は俺の横を通り過ぎた。
一瞬近づいただけだが、あちこちに擦り傷だらけなのが見えた。

糸綴じの本 | 2007.02.09
学校の帰り道。
俺はひたすら不機嫌に家路を歩いていた。
いつもはこんなに、あからさまに不機嫌に歩いていたりしない。つまらない授業で拘束する学校から開放されて、学校にいたときよりも明らかに元気になっている。
それが、だ。
「たかだか偶然帰りが一緒になっただけで、明らかに不機嫌な態度は傷つくなー、牧野くん」
校門を出るまで近くに気配のなかった麻都が、校門を出たら横にいた。
「俺はお前との腐れ縁をいい加減切りたいの!」
「あははー、仕方ないじゃん。家族仲良し、家も近所、頭のレベルも近所なんだから」
「嘘付け!中学で学年のトップと争ってたくせに!なんで底辺間近の俺と同じ高校なんだよ!」
「だって疲れるじゃん」
相変わらず麻都は飄々としている。

俺は麻都が苦手だ。
小さい頃から散々お化け話で怖がらせてくれた。お陰で俺は大のお化けギライ。
酷いときは押し入れに連れ込まれ、叫ぶのも逃げ出すのも出来ない状態にされ、おっとろしい話を延々聞かされ……確か俺はグシャグシャに泣いていた。
……嫌な記憶を思いだしてしまった。帰って寝てまた封印しないと。

カンカンカンカン……

学校から少し離れた所にある踏切に差し掛かった。甲高い警報機が鳴り響き、黒と黄色のシマシマの棒が横倒しになって行く手を阻む。
立ち止まって吐き出した息が白い雲になって空に消える。冬の真っ只中。冷たい空気の中で立ち止まるのは好きじゃない。
俺はマフラーの中に口を隠し、隣で飄々としてる麻都と口を聞かないようだんまりを決めた。
こいつは怖い話しかしないんだ。耳を貸すだけで嫌になる。
「そうそう、踏切と言えば…」
俺がだんまりなので麻都が話をし始めた。

糸綴じの本 | 2007.02.08
人も車も通らない、やたら明るい雨の中、人の大きさほどの狐たちが、まるで人間のように着物を着て、歩いてたのだ。

き、狐の行列…。

かすり着物の狐たちが二匹並んで行儀良く、初めと終わりの分からぬ長さの行列を成していた。彼らはそれぞれ提灯や和楽器、反物など色々なものを持っていた。
多分真ん中ほどになるのだろう、白無垢姿の狐と、紋付き袴の狐が並んでいた。
一見、人間の行列のようだが、頭には大きな尖った耳、お尻のあたりからはふさふさの尻尾が伸びていた。
狐が二足歩行でいる時点でおかしいんだが、なんというか、兎に角デカいし、言葉も出なくって、公衆トイレの壁にもたれかかるくらいしか出来なかった。

不意に、太鼓の音が止まる。
鈴の音も。
歩みを進める狐の行列も、ピタリと止まった。
嫌な、予感がした。
いつもなら、車が嫌と言うほど通る道路なのに、車の来る気配はおろか、人の気配もないのだ。
あるのはただただ、明るい空の下に降り注ぐ雨と異様な狐の行列。

ざわっと鳥肌がたった。
狐たちが一斉に、ぐるんと此方を見たのだ。
糸目な狐たちの視線の先は分からない。が、顔は此方を向いていた。
あまりの恐ろしさに、膝からかくんと尻餅をついた。
…ヤバい。あれは、絶対ヤバい。
へたり込んだお陰で狐たちの姿は見えなくなった。だが、そこの通りにある気配は、分かる。
…ど、どうしよう…。

糸綴じの本 | 2007.01.23
空は何処までも晴れて、果てしなく、きらきらと光っているのに、まるで梅雨時のように雫が線を引いていた。
「あ…雨?」
学校が終わり、いざ校舎から出ようとした、その時だった。
「晴れてるのに…何処から」
「天気雨だよ、牧野くん」
「あ、麻都」
昇降口で佇む俺の傍らに、いつの間にかそいつは立っていた。
「実に素晴らしい天気雨。いや、実に」
そう言って、麻都は空を仰ぎ見た。額に手を当てて、まるで遠くを見るように。
「素晴らしくもなんともねーよ。帰るこっちは大迷惑」
傘がなきゃ歩くのは厳しそうな降りようだ。
「すぐに止むさ。それに…」
「それに?」
「天気雨の時に一人でいない方がいいよ」
いつもへらへらした麻都の顔が、一瞬だけマジになった。
「な、なんでさ」
「お狐様の行列に入れられちゃうからさ」
…ちょっとだけ、真面目な答を期待した自分が馬鹿に思えた。
そうだ、こいつはオカルトとか大好きな変人だったんだ。
「これだけすごい天気雨だもんな、よほど偉いお狐様のお嫁入りなんだろーなぁ」
しげしげと空を眺める麻都。
クダラネー。
降り方が少し弱まってきたのを見計らって、俺は鞄を頭の上に乗せた。
「前から言ってるけど、その手の話は信じてねーんだからな!」
「…しょっちゅう心霊体験してるくせに」
「うるせ!…俺は帰るっ!」
「止むまで待ちなよ」
「お前と一緒なんてゴメンだっつの!!」
俺は晴れた空から降りしきる雨の中、校門の方へ走り出した。
「気をつけてね〜」
背中に麻都ののんびりした声が聞こえた。

糸綴じの本 | 2007.01.22
 私がいきなり真面目になると同時、もう一人、豹変した人もいた。
 未琴だ。
 彼女は、私に対して、これっぽちも友情を持っていなかったのだ。そのことを、私は遂に知ることとなった。私は、それなりに友情らしきモノはある、と思っていたのだが、裏切られたようだ。
 それを知ったのは、ある日の昼休みのこと。未琴の教室へ行こうと、廊下を歩いている時だった。目的地に近づくに連れ、聞こえてくる話し声が、未琴がそこにいることを確信させた。けれど、その話の内容に、私は足を止めてしまった。
「未琴ぉ、最近、例のあの子、真面目になったらしいじゃん。あれってホント?」
「志乃ちゃんのことでしょぉ?うん…それで少し困ってるんだよね」
 クラスの子と話しているらしい未琴。
 なんだそれ?どうして未琴が困るんだ?
 よく分からなかった。その答えは、少しして、未琴の声から得ることが出来た。
「あんな子、私の引き立て役で充分なのに」
「だよねぇ」
 あはははは、と続く、愉しそうな笑い声。
 引キ立テ役?
 私ヲ利用シテタ?
 忘れられない、屈辱感。
 そう、未琴は、私を使ってイイ子に見られるように努力していたのだ。
 イジメられっ子の味方をする、優しい女の子。とか、
 問題児でも差別しない、心の広い女の子。とかね。
 でも、私が真面目になったことで、そういった視線で見られないことに、困ってるらしい。
 私と未琴は中学からの友人だ。だから、彼女の裏の顔を知らなかったのだ。
 最近、未琴は私を問題児に戻そうと、あれこれ手を尽くし始めた。
 深夜にカラオケに誘っておいて、自分は行かず、補導員の先生に、私がカラオケボックスの前にいることを知らせていたり、未琴が自分でわざとやった不祥事を、私のせいにしたり。
 真面目に頑張る私の心を、殺そうとしているのだ。
『駆除したもん勝ち』
 今、私は、未琴を取り除くべきかどうか、そのことで悩んでいる。

fin..

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糸綴じの本 | 2006.12.17