ようこそ『The Ark』へ

ようこそ、物好きな皆さま。
当ブログでは、不可思議な小説、童話的な小説をおいております。
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それでは、どうぞごゆるりと。。。


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糸綴じの本:目次

下に行く程新しいです。

■単発作品
「柵の向こう側」
「白イ花」
「りんご箱」

■異端見聞
「異端見聞:狐雨」
「異端見聞:フミキリ」

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- | 2011.02.18
 インテルメッツォ:3


廊下の空気の温度は、暖炉の側よりもぐっと低く、伯爵が灯りにと持ったランプの炎で小さく暖を取った。
ゆらりゆらりと揺れるランプの灯りに導かれながら、廊下を進む。

アリスの話を終えた伯爵は、「来なさい」と一言言ったきり、何も言わない。
ただ、ランプを取って、廊下を進むだけだ。

長い廊下をひたすら歩き、一つの扉の前で伯爵が立ち止まった。
一見重そうに見えた扉は、キィと小さく鳴いて開いた。

薄暗く、廊下よりも寒い部屋があった。
その奥に、ぽつんと一人、少女が座っていた。

「彼女がアリスだよ」

伯爵はそう言って少女に近づき、少女の顔にランプを近付ける。
憂いを帯びた、儚くも美しい微笑みを浮かべる少女、アリス。

「もう動く事はないんだ」

少し寂しそうに、伯爵が言った。

「どうしてですか?」
「術を解いてもらったんだ。アリスが望んだ事だけれどね」

少女から離れ、伯爵は部屋を出る。私も続いて部屋を出た。


「さ、もう夜も遅い。明日は例のモノを見せてあげる約束だからね。ゆっくり休みなさい。さ、客室に案内しよう」

そう、私の目的は、別にあるのだ。
不可思議な物の収集家であるD伯爵とお近づきになったのも、共通の物好きがきっかけである。

通された部屋も、西洋アンティークで統一された小綺麗な部屋で、普段の私の自室との雲泥の差に、目眩を覚えながらベッドに横たわった。



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D伯爵の童話 | 2007.01.04
***


行商の男の話は、瞬く間に噂となって街中を駆け回った。

「世の中には…」
「…ホントに」
「しかしその青年…」
「えぇ、もしかして…」
「…まさか」
「いいや、有り得るぞ…」

噂は噂を呼び、別の噂となって街の人々を騒がせた。

消えた街一番の令嬢は、とても美しかった。
生きたままにその姿を張り子にされてしまったのではないか、と。


D伯爵の童話 | 2006.12.31
***


ある日、行商の男が、街に訪れた。
その商人は色々な国を回っていて、物好きな人間には色んな国の可笑しな話をしてやるのが趣味のような人間であった。
その日も、行商の男は街の小さな酒場で、こんな話をして聞かせた。

「知っているか?
 人間の形をしたモノに魅せられた男に会ったんだ。

 隣の国での話だ。
 とある市場で、見窄らしい格好をした青年が、こう言ったんだ。
 『年頃の少女が着るような、美しい衣服が欲しい』
 まるで所帯を持っているようにも思えない、若くて、頬は痩けてしまっていたがそこそこに顔のいい青年だった。
 『なんだ、使いの人間か?年頃の少女なら、欲しい衣服は自分で選ぶものだが』
 そう言うと、青年はこう言った。
 『私の愛する彼女は、その身を自ら動かす事が出来ないのだよ。口も聞けないから、好みも聞けない』
 病弱な女へのプレゼントかと思い、適当に見繕ってやろうとしたのだが、
 『金ならあるから、この世で一番美しい彼女に似合う、美しい衣服をお願いしたいのだ』
 そう言って、金貨の入った袋を渡されたのさ。随分な金額だった。だからこう言ってやったのさ。
 『それほどに美しい娘なら、一度見てみたい。会わせてくれれば、その娘に一番似合う衣服を用意しよう』
 青年はしばらく考え込んでいたよ。他人見せるのは勿体無いらしい。
 随分と悩んでいたが、承諾してくれた」

行商の男は、そこまで一気に話すと、盃の酒をぐいと飲み干した。

D伯爵の童話 | 2006.12.30
そんなある日、少女は青年に告白した。

「同じ学校に通っている男の子にね…」
少女は、少年に愛の告白を受けた事を告げた。
「それでね…」
愛する青年のいる少女は、少年に青年の存在を告げた。
「だけどね…」
少年は少女を諦めてはくれなかった。
「だからね…」
一度だけの接吻で、諦めてもらう事にし、諦めてもらった。

少女は申し訳無さそうに、そう告げた。


D伯爵の童話 | 2006.12.29
第3章:アリスという少女


そもそも、人形は何処からきたのか。


知っているかね。

人形の見つめる果てしなく膨大な時間。
空虚な瞳の起源。
今でこそ、その腕に抱ける人形の多い理由。
人が人形に幻想を抱く由来。

この世にあるものは、全てが結果であり、等しく原因が存在する。


それはそれは、遠い昔のお話。

人形という存在が生まれる、少し前のお話


D伯爵の童話 | 2006.12.20
 インテルメッツォ:2


私は、手にとったジェシーという人形に視線を落とす。
目隠しと、猿轡、両手足を縛る紐。
あまりにも可哀想で、外してしまおうと、手を伸ばす。

「おやめなさい」

伯爵が静かに制す。そして続けた。

「彼女にとって、その状態が完璧である事なんだ。持ち主の望みを叶えた、その状態であることが彼女の望みなんだよ」
「でも…」
「…人も人形も、愛する事ができると言う事が一番の幸せ。ジェシーは…完璧を望んだ。リデルのように人を愛する事を忘れてしまった」

伯爵はジェシーをこちらに、と手招きした。
私はジェシーと伯爵を交互に見つめてから、伯爵に渡した。

「もしかしたら、ジェシーは歪んだ愛情でもって彼等の側に居たのかもしれないね」
ジェシーの頬を指で撫でる。
「だとしたら、完璧なる聖母は歪んでいるのかもしれない」
「伯爵…」
「はは、蔑んでいるわけではないよ。完璧な物が人間を狂わせるならば、この世に蔓延する不条理もまた、神のせいだ。とは思わないかい?」
私は何も言えない。
「…完璧である存在は、人々を狂気に誘う。狂気に身を委ねる人間もまた、愚かなものだがね」

二つの人形を、伯爵は元の位置に戻した。そうして元のように揺り椅子に腰掛ける。
「そういえば、人形がどうして出来たか、知っているかね?」
「出来た由来ですか?…たしか、大昔の人間が神を具象化したのが始まりだったと思いますが」
「ふふ、まぁ歴史的にはそうなのだろう…だけど、もう一つ、由来があるんだよ」

伯爵が、揺り椅子に深く腰掛ける。

「人形が人の形を成すものと、名付けられた由来。全ての物事には原因が存在するのだよ」

きぃ、と少しだけ、椅子が鳴いた。


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D伯爵の童話 | 2006.12.19
***


観賞用人間は完璧である。
故に、女の観賞用人間は、人間の女に疎まれやすい。
ヴィヴィもまた、例外ではなかった。

ヴィヴィが完全に男の家に入り浸り、内縁状態のようになっていた頃、男が出掛けたある日、ヴィヴィはジェシーを問いつめた。

「ジェシー」
「なんですか?」
「貴方、あの人の事、どう思ってるの?いくら作り物でも、人を好きになったりはするんでしょう?」
「あの方は、私の大切な人です」
「それは好きって事?」
「好きというのが、よく分かりませんけど、あの方の為にできる事なら、何だってしたいと思っています。もちろん、ヴィヴィさんはあの方の大切な人ですから、ヴィヴィさんの為にできる事もやりたいと思っていますよ」
「あ、そ」

ジェシーは完璧だ。
その慈愛に満ちた目は、まるで聖母のよう。

「気に入らないわ」

ヴィヴィはそういうと、白いスカーフでジェシーに目隠しをしてしまう。

「ヴィヴィさん何を!」
「気に入らないの!あんたの目が!」
「そんな…」
「私の為にできる事ならするのでしょ?だったら貴方は今後、目隠ししたままで生活なさい!」
「! ……はい」


男が帰ってくると、ヴィヴィは男に事の真相を話す。
もちろん男は反対した。
どうしようもない理由で、ジェシーを不自由にさせてしまうのはあまりに可哀想だ。
反対するならば、別れる。
そうヴィヴィに言われてしまい、男は渋々承諾した。

しかし、ジェシーは口元に優しい笑みを浮かべたままだった。


目隠しをしていても、ジェシーは何事も完璧にこなす。
それは身体が全て覚えているからだろう。

何事も完璧にこなそうとも、目隠しのジェシーはあまりに可哀想で、男はジェシーを気遣った。
それはヴィヴィにとってはなんとも気に入らない様子で、その様を見るにつけ、ヴィヴィは激怒した。


ヴィヴィの誕生日が近くなり、男はヴィヴィの為にプレゼントを用意した。
日頃、ヴィヴィを怒らせてばかりだから、かなり奮発し、素晴らしい洋服を用意した。

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D伯爵の童話 | 2006.12.18